女性向け風俗コラム

2021/6/7俺が女風セラピになった理由〜新人・倫也の場合〜

倫也は新宿駅の地下、東改札に向かっていた。

お客さんを迎えるのは今日が初めて。
研修は受けたし、自分でかなりのことは事前に学んだつもりだ。

(緊張するな、さすがに……)

地下街に入ってもなお湿気の多い日だった。
駅に来るまでの道は、雨で濡れている。

まるで自分の気分のようだったし、これからもてなす女性をこの道よりも濡らしたいと倫也は意気込んでいた。

「倫也です。美春さんですよね、よろしくお願いいたします」

倫也が目の前にしたのは、セミロングの髪を固く一つに縛った女性だった。

(女性用風俗を利用する人って、もっと派手な人かと思ってた)

言い方は悪いが、どこにでもいそうな普通の女性。
「ホテルの場所を詳しく知らない」と言っていた美春さんの隣に並んで、エスコートして歩いた。

久しぶりのホテル街でプロになると誓う

人通りの多くなってきた繁華街を抜けると、ホテル街へ。いろいろなタイプのホテルがこの街にはある。
リゾート風のリッチなホテルから、価格の低さをウリにするホテルまで。

倫也だって心臓が口から飛び出そうなほど緊張していたけれど、そんな素振りは見せないように努めた。

新宿のホテルに来るのは、別れた彼女と1年前に来たのが最後。

バスタブの蛇口をひねりながら、彼は口を真一文字に結ぶ。

「もう俺はプロなんだ」

変わっていない街に安堵しながら、倫也がエスコートすると美春さんはうなずいて付いていく。
部屋を選んでエレベーターで5階へ。入室しソファに美春さんを座らせると、倫也はお風呂場に向かった。

緊張している場合ではない、と両手で一度頬に気合を入れると、美春さんの足元に戻って柔らかい目線を送った。

どんなことをしてほしいか、されて嫌なことはないか……心からもてなすために、美春さんにカウンセリングしていく。
それは、さながら倫也が大学時代に学んだ、臨床心理学のカウンセラーの姿のようだ。

「私、こういうの利用するの初めてで……こわくしないでくださいね」

緊張していたのは美春さんも一緒だと気づいて、倫也は彼女の手を両手で包む。

後から聞いた話だが、倫也がセラピストとして指名されたのは、「美春さんと同じく経験が浅く、共感してもらえそう」だと思ったからだという。

美春さんの手は思いのほか小さくてひんやりしていた。

倫也は彼女に湯船に浸かってきてもらうことにして、その間に施術の準備をする。

(とにかく、今はリラックスしてもらうことが一番だ)

女性が心も体もリラックスしてもらえる時間

シャワーの音が響く間に、落ち着くBGMを流して、部屋の照明を暗くしておいた。

用意していたバスローブをまとった美春さんは、体が温まって表情がほぐれている。
これからもっと幸せな表情にしてあげたいと思いながら、「待っていてください」と倫也もシャワーを浴びた。

それからのことは、必死すぎてよく覚えていない。

とにかく目の前のことに集中する必要があって、美春さんに甘い声を出させるためなら、どんな努力もできた。

セラピストを始める前は、「もしかしたらオイシイ思いもできるのかな」なんて思っていたけれど、いざ目の前で癒しを求める女性がいると、自分の欲求なんて二の次になってしまった。

駅で固く結ばれていた髪がほどかれ、冷たくなっていた手が熱を帯びていくのに伴って、美春さんの心もやわらかくほどけていくのが倫也にはわかる。

施術が終わりベッドで力を抜いて横たわる美春さんは、倫也の腕枕の中で笑いながらこう聞いてきた。

「ねえ、倫也くんはどうしてこの仕事始めたの?」

声の高さも、緊張感のなさも、さっきとはまるで違う。
真にリラックスさせてあげられたのだと倫也は気づき、頬を緩ませながら美春さんに答えた。

倫也自身も、さっきまでの緊張がうそのようだった。

「俺、カッコよくなりたくてセラピストになったんです」
「カッコよく? なにそれ、よくわからない。教えて?」

自分自身も美しく、女性を美に導く仕事

昼間は経理の仕事をする倫也は、特段他人と美を競うことはない生活だ。
でも1年前、別れ際の元・彼女に「つまんない男になっちゃうよ」と言われたことを思い出す。

ずっとその言葉を気にして、「魅力的な男とはなんだろう」と考え続けた結果知ったのが女性用風俗のセラピストという仕事。

セラピスト同士、競い合って自分の美を磨かなければならないし、女性を悦ばす力も高めていかなければならない。
カッコいい男になるにはうってつけの仕事だと思った。

セラピストになるために筋トレの頻度を増やして、オイルトリートメントの勉強も続けている。
その結果が、今日の美春さんだ。

「久しぶりにとってもいい思いができたわ、ありがとう」

その言葉が何より嬉しくて、彼は目を閉じて大きく頷いた。
魅力的な男になるために選んだ仕事だったのに、目の前で笑う女性を見ると自分の目的以上のやりがいを感じる。

はじめたばかりのこの仕事を、楽しんで続けていけそうな気がすると倫也は胸を撫で下ろした。

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この記事を書いた人

度江のなめ

児童文学作家になるつもりが、いつのまにか官能小説家になっていました。
女性ファッション誌、男性ライフスタイル誌などでもコラム・小説を執筆中。ホラーからエロゲシナリオまで書くなんでも文章屋さんです。