写メ日記
【夜を明ける】第一話
2024年12月27日 15:05 の投稿
第一話空ベランダから眺める住宅街のイルミネーション古びたマンションの4階からでは決して幻想的な風景ではないしまばらに瞬いている様はなんだか切ないーーそっか、クリスマスはもう終わってるんだそれは片付け忘れているだけかもしれないしクリスマスのためだけに装飾しているわけでもないあるいは賑やかに見えれば良いだけかもしれない25日を終えたらすぐに片付けるルールなんてないどちらにしても私には関係のない事だ去年もそんな事を考えながら同じ景色を見ていたその前も、さらにその前の年もそうかもしれないしそうじゃないかもしれないそんな代わり映えのない年末を過ごしているそして、気付けばもうこんな年だ昔は30代なんておばさんだと思っていた30くらいになれば勝手に結婚できるそんな気持ちで漠然と過ごしていた20代……なんて思いながら30代も後半ただ、結婚への憧れが強いわけではないそれは両親の影響もあるかもしれない亭主関白な父親の言動に対してどちらかと言えば不快な気持ちを抱いているかといって明確な反抗期があったわけでもなく家族仲良く旅行に行くような家庭でもないお皿に乗った飾りっけのないショートケーキクリスマスらしさなんて全くなくて色物を毛嫌いする父親に気を使いつつ娘のためにも季節事を添えてくれているそんな母の立ち回りを健気に感じてしまうだからハッキリと言った事はないけれどそこまでイチゴが得意な方ではないかわいらしいルックスとはかけ離れた口に残る酸味がイヤなんだそんな二人の反面教師が私を形成している非行に走ってみようかと考えた事もあるが私に似合わない事くらいは理解しているそれどころかクラスで唯一の皆勤賞だった内緒で買ってみた電子タバコですら口に添えてはみるものの、電源を入れる度胸もなく手持ち無沙汰を解消するアイテムでしかないそれ以前にもう隠れて買うような年齢ではないそんな事が頭を巡り、吐き出される白いため息が束の間の夏と秋のように、一瞬で夜の空に消えるーーそろそろ寝ようかな風も冷たくなってきたし、明日はやっと仕事納め冷え切った指先の感覚はなく中指を雑にスマホにぶつける電池は残量が見えない程に僅かしかない薄暗い画面がはっきりと視認できず画面を覗いた瞬間にロックが外れる寝起きに通知を見るのが嫌いな私は大した数もない通知を一通り消すのが寝る前の日課なのだが友達なんていないし、もちろん男もいない毎日のように届く多種多様なメルマガくらいだ狙いが定まらない指先が別のアプリに触れ想定外にブラウザを立ち上げてしまうアプリを落とそうにも重なる誤操作そして……古い閲覧履歴が私の記憶を起こそうとする一枚の画像がぼんやりと映し出されそこには新緑の陽に包まれた男性の姿その瞬間、冷え切った私の心にあの夏の温かい記憶が微かに灯った……と同時にスマホが力つきてしまったあの夏から走り続けることになった私限界寸前な心と体がほんの少し息を吹き返す気合い交じりのため息はベランダに残しゆっくりと閉めた窓には、珍しい表情が映る明日の密かな楽しみをスマホに託して私は眠りに着く事にしたつづく次回、12/31配信予定