写メ日記
一日目:焦げと私 ~焦げの中に宇宙を見る~
朝、目覚まし時計のけたたましい音で目が覚めた。まだ眠い目を擦りながら、トースターに食パンをセット。タイマーをセットし、二度寝…とまではいかないものの、ぼんやりと意識を飛ばしていた。数分後、鼻をつく焦げ臭い匂いで完全に覚醒。飛び起きてトースターを開けると、案の定、食パンは見事に真っ黒に炭化していた。朝からこれか…と、小さくため息をつく。今日の占いは最悪だろうな、などとくだらないことを考えながら、焦げ付いたパンをゴミ箱に投げ捨てた。
今日は、焼き芋セラピストとして店に出る日。朝の焦げ付き事件は、なんだか今日の仕事の行く末を暗示しているようで、少しばかり不安になった。しかし、セラピストたるもの、どんな状況でも冷静沈着でなければならない。焦げの一つや二つ、いや、百や二百、どんと来い!と、心の中で自分を鼓舞した。
店に着き、準備を始める。今日の芋は、紅はるか。蜜がたっぷりで、焼いている最中から甘い香りが店中に広がる、人気の品種だ。石を並べ、火を起こし、芋を丁寧に洗って並べていく。この作業をしている時が、私にとって一番心が落ち着く時間だ。土に触れ、自然の恵みを感じる。焼き芋は、土の中で育ち、太陽の光を浴び、大地の恵みをたっぷり吸い込んだ芋を、火でじっくりと時間をかけて焼くことで、甘みと香りを最大限に引き出したもの。それは、自然の力と人間の知恵が融合した、まさに芸術作品と言えるかもしれない。
火力が安定してきたところで、芋を石の上に並べていく。焦げ付かないように、時々様子を見ながら、芋をひっくり返していく。しかし、今日はどうも調子が悪い。火力を少し強くしすぎたせいで、何本かの芋に焦げがついてしまった。ああ、また焦げか…と、またため息をつきそうになったが、ふと、焦げ付いた部分をじっと見つめてみた。黒く炭化した表面は、よく見ると、まるで宇宙のようにも見える。無数の星が散らばり、黒い宇宙空間が広がっている。焦げの中に宇宙を見る…これは新しい発見かもしれない。焦げを単なる失敗と捉えるのではなく、そこから何かを見出そうとする。これこそ、セラピストの視点と言えるだろう。
焦げた部分を丁寧に削ぎ落とすと、中からは黄金色の蜜が溢れ出てきた。焦げの苦味と蜜の甘さのコントラストが、なんとも言えないハーモニーを奏でている。人生も同じ。苦い経験があるからこそ、甘さが際立つ。焦げは、人生のアクセント。そう、焦げは単なる失敗ではなく、人生の深みを教えてくれる教師なのだ。私は、焦げ付いた芋を手に取り、じっくりと観察してみた。焦げの形、色、質感。一つとして同じものはない。まるで、人間の指紋のように、それぞれが個性を持っている。
今日は、焦げ付いた芋を何本か、お客様に特別価格で提供してみることにした。「これは、少し焦げがあるんですが、その分、甘みが凝縮されているんですよ」と説明すると、意外にも好評だった。「焦げの哲学」を語ってみたところ、興味を持って聞いてくれる方もいた。ある女性は、「焦げって、なんだか人生みたいですね」と言って、深妙な顔で焼き芋を食べていた。焦げをマイナスと捉えるのではなく、プラスに変える。これこそ、焼き芋セラピストの真骨頂と言えるだろう。