写メ日記
【夜を明ける】第二話
2024年12月31日 13:05 の投稿
第二話不常年末休暇に入るはずだったのに今年も緊急対応という名の尻拭いだ朝から電車に揺られる大晦日いつもなら満員電車のはずなのに今日はあの夏の日と同じようにまばらな車内バッグからスマホを取り出し、ロックを解除する心に若干の後ろめたさがあるせいか不安定な視線が電車の様子を伺いながら定まらない指先でゆっくりとスマホに触れるそして……あの夜に蘇った記憶を手繰り寄せるーーそう、「彼の文章」普段であれば、通勤時間が長いこともり後発の整列乗車列に並んでは必ず仕切りの板がある端の席を確保する残念ながら女性専用車両に対応していない時間だ板に身を寄せ、枕代わりのバッグに顔を埋めるもちろん寝ているわけではないのだが髪型が崩れないように、メイクが落ちないようにハンドタオルを一枚敷き、そっと顔を乗せる誰かと目が合うような事は避けたい音漏れしない程度のギリギリの音量で周囲を遮った時間を過ごすちょっとした旅行くらいな距離がある反面始発駅で座れるのが唯一の救いであるだからといって気を抜けるわけでもない汗まみれのオジさんが隣に座った日には一日中腕に悪いモノが取り憑かれたような気分でそんな事もあってか、どんなに暑い日であろうと電車の中ではカーディガンを羽織るようにしている一人分の席の領域を破ってくる無神経さ無自覚に荒ぶる耳障りな呼吸そんな時はいつもより音量を少し上げて鞄をギュッと抱きしめて息を潜めているそんな窮屈が続いた夏のある日の事だったーーそう、あの日もまばらな車内だったあの日、お盆の時期もあってかターミナル駅からの人の乗り換えも少なく私は学生の頃に憧れた非行、とまではいかないが初めてキスシーンを観た子供のような気持ちでSNSで見かけたあるドラマの情報を追いかけていた恋愛経験が多いわけではないせいなのか学生時代、クラスで流行った少女漫画の影響なのかそっちの方は偏った情報しか持ち合わせていないしかしそれを自覚しているから自分は例外だ……なんて言い聞かせながら恋愛に距離を置いていた物語は地上波で放送されているドラマとは違い少し大胆な表現なのか、私の感覚が未だ子供なのか刺激的な単語ばかりが目に飛び込んでくる私は普段そういった単語を口にするのは苦手だが文字で検索するくらいであればなんの躊躇いもない……はずだったーー「女性用風俗」瞬間、腕に不快な感覚がよぎった男のみの世界の、お世辞にも印象の良くない言葉車内はまばらなのに、隣は空席なのに停車した駅名を確認し、重く一息をつくその流れで次の駅を確認するフリをしながらゆっくりと隣の空席を確認し、また車内を見回す嫌悪感でいっぱいになったはずなのにSNSで溢れる情報の波と怖いもの見たさの気持ちに押されて耳慣れない言葉を検索してみるモザイクばかりの男性の写真が並ぶ時おり現れる上半身裸の写真ーー腹筋だけでどう判断するの?不覚にも車内で苦笑いを浮かべてしまったが一種の見下したような気持ちが、心の障壁となる電車に揺られながら指先が奥へと進める様々な店、たくさんの男の子の存在私には縁のない世界だと思っていた「彼の文章」に出会うまでは……現実に戻るまで残り数駅、私は電車に揺られながら彼の世界へと踏み込んだーーそう、「彼の文章」彼のアカウントから発信されている文章彼が発信しているであろう言葉彼の言葉に私は何度も目を止めてしまう読むほどに引き込まれる彼の世界徐々に迫る最寄り駅電車の減速とともに、スマホをバッグしまう到着と同時に手すりを掴んで勢いよく立ち上がる自分自身で心の高まりを感じる仕事終わりの楽しみができたせいか足取りは軽やかに、私は職場へと向かったその先の物語が無い事など知る由もなく……つづく次回、1/2配信予定