写メ日記
【夜に明ける】第三話
2025年1月2日 14:05 の投稿
第三話価値観年末にも関わらず、緊急対応で出社し続けた私はなんとか仕事を納めきったイベント運営の業界では珍しい事ではないさらに言えばこんなトラブルは推測の範囲でしかないあの時ちゃんと声に出して指摘さえしていれば……足取りが軽かったはずの気力など無くまばらに空いた席と、触れたくないつり革も避けドア付近に身体を預けなら帰路についたそのまま鐘の音を耳にする事なく、眠りに落ちたそして……いつもの週末と同じような新年を迎えた普段は口数が少なめな両親だが年始に限ってはリビングで談笑をする宝くじが当たったらだの、当たるはずがないだのギャンブルをする度胸もないクセに私はタラレバの話が嫌いだあの時ああしていればとか、こうしていればとかもし宝くじが当たっていたら……買ってもいない奴の会話ほど無駄な時間はないそんな話題に乗っかって、男心をくすぐるような喜怒哀楽が溢れるほど豊かなリアクションなんて私には向いてはいないし、する気もないーーあの時、メールしていれば後悔なんてものは先に立ってはくれない知らない世界の事件やトラブルなんて予測できないほんの少し前まで高鳴っていたはずの気持ちがスマホを握る気力すらなくなってしまった夏以降、孤独に繁忙期と闘っていたせいで「彼の文章」の存在を追いかけられずにいた繫忙期には少し早いのかもしれないが手間がかかる作業から些細な作業まで全て私のところに放り投げられてくるこんな時に限って、私は愛嬌が良いフリをするそうやって何年も出会いのキッカケを塞いでこんな年にもなればそんな職場の男達が恋愛対象どころか不快な存在に感じているストライクゾーンなんて年々狭まる一方だそんな不満を胸に秘めているが職場恋愛なんて真っ平ごめんだだからといって出会いの場に足を運ぶ気も無い一目惚れなんてしたこともなければ年を重ねるほど恋は芽生えにくいって話だ経験を積めば積むほど価値観が固まりあれがイヤだのこれがイヤだの……優先順位のつけられない、譲れられない価値観たちーー若い頃に少しは恋愛をしておけば良かったなタラレバの一つや二つ、誰だってしてるよそうは言っても凝り固まるのがこの年の価値観そう簡単には切り替えられない男慣れしていない私には高過ぎるハードルーーならばいっそ下をくぐってみようか!……なんてトンチを言いたくなってしまったのは間違いない、彼の影響だ吸い込まれるくらいに、彼は心地よい文章を紡ぐポジティブな言葉に見え隠れする悪戯な毒気シンプルな単語の裏に仕込まれた様々な伏線それでいて誰よりも強めのモザイクシャープな輪郭のみで表情なんて窺えないだから苦手意識である異性を感じなかったのだろう私が興味を持つにはピッタリな存在で逆に言えばハードルが低い存在しかし見えないビジュアルよりも感じる魅力追いかけたくなるリズミカルなワードセンス右を見ても左を見ても、ありきたりな言葉ばかり安い少女漫画ですら使われないありふれたクサい文句しかし「彼の文章」は客を、女を誘惑していない逆に試されているような、挑発されているような私が評価するのも変な話だが、万人受けしない内容浮き隠れている……と表現すれば適切だろうか時には短く、時には長く、それでいて小気味良い理解できない内容も時にはあったがそれはきっと私の理解力のせいだ……私は完全に彼の虜になっていたのだとにかく謎で気になる存在、気になる文章だったーーそう、それももう過去の話あの夏、追いかけるように読んだ彼のアカウント同じ時間を過ごしたかったのに久しぶりに見たアカウントは更新が止まっていた彼は本当に存在していたのだろうのか私は彼の後ろ姿を見ていただけあの時踏み込んでいればあの時メールの一つでも投げていればーーそんなことしか言えない自分が本っ当に大嫌いだ嫌悪はいつだって私の隣に勝手に居座る私の腕に、私の心にいつも重くのしかかるプラスにもならない無駄な価値観なんて早く捨ててしまえば良かったんだーー彼に会いたかったつづく次回、1/5配信予定