写メ日記
【夜に明ける】第四話
2025年1月5日 13:05 の投稿
第四話きっかけ年が明けるって、何がめでたいのだろうか新年のあいさつが嫌いだ亭主関白な父親が嫌いだタラレバの話をする奴が嫌いだ嫌いな事ばかりが多い自分が嫌いだもう何もかもがイヤだ嫌いな事にも無関心だったはずなのに後悔が、負の感情が私の心を揺さぶるベランダから見える景色を眺めても吸えもしない電子タバコを握りしめてもイライラが止まるはずがない子供の頃、親に手を引かれて行った初詣が嫌いだった人波を掻き分けきれず、それでも引っ張られる手知らない大人に囲まれる息苦しさと不安大人は自由を奪い、進むべき道を阻んでくる中学に入る頃、人生で初めて両親に拒否を示した……それ以降、正月は億劫な行事になった仕事は好きな方ではないけれど家にいるよりはよっぽどいい尻拭いだろうと頼りにされる私がいる新年の空気感が溢れた街並みも嫌いなのに気持ちが押しつぶされそうな私は家を飛び出した何もかも否定するようにいつもと違う電車に乗りいつもは避けるターミナル駅で降り人の通りが少ない方へと足を向けて歩く気付けば繁華街の大通りにいた私が大人になったのか、時代の流れなのかあの頃ほどの活気が街からは感じられない繁華街の奥へ行くほどさらに人の数も減りちらほらとカップルが歩いている程度いや、カップルではないのかもしれない立ち並ぶホテルから出てくる男女もいれば周りを気にしながら入口へ消える男女見てはいけないものを横目で見ながら足早にその一帯を抜け出すカイロ代わりのお茶を自販機で買い気付けば神社のそばを歩いていたやっぱりあの頃よりも人波を感じない昔とは違う風景が目の前にあった記憶が塗り替わると共に負の感情が少しずつ薄れていく……ーーおみくじ、引いてみようかな自分自身への反抗期なのだろうか思い返せばおみくじなんて引いた経験がない理由は単純で、親の許可が下りなかったからだもし凶を引いたら、その一年が不幸になるそうだーーそっか、親への反抗期かタバコを吸う事よりも抵抗はないし彼にメールをするよりハードルは低いでももし大吉が出たら、彼に連絡してみようーーとにかく変わるきっかけがほしい!……結果は吉だったまた心にぽっかりと穴が空いた冷たい風が頬に当たる買ったばかりのお茶のぬくもりが不快に感じる大吉さえ引いていれば彼に会えたかもしれないでももう彼はこの世界にも、あの世界にもいないだけど彼に会いたい叶わないなら「彼の文章」に触れるだけでいいそう想って、彼のアカウントを開いたーーふふふっ、やっぱり彼は面白い止まったはずのアカウントに新しい投稿があったまるで今の私の背中を押すような私の見透かされた心にイタズラをするようなそんな不思議な小説が投稿されていたなぜ小説を書いたのか、理解はできないいや、彼が私に理解できるはずもないし理解する必要もない彼はいつだって私の価値観の、常識の外側にいるーー彼にメールしてみよう!どんな人かは今もわからない結果は大吉じゃないかもしれないでも私の吉はハズレなんかじゃないおみくじの結果の価値は私が決めればいい!彼に会う時はどんな格好でいこう?彼に会ったらどんな話をしよう?初めての挨拶はあけましておめでとうかな?でも正月早々に初めての連絡だなんて非常識かな?絶対にキモいって思われる…………宝くじを買ってもいないのにまた私は無駄な事を考えてしまったどうせ返事なんて来ないだろう期待さえしなければ少しは気がラクだそんな想いで彼にメッセージを送信したーーダメだ、待つのがツラいそんな感情に押しつぶされそうな私は耐え切れずに送信履歴を削除したそしてスマホを鞄にしまった瞬間微かに振動音が鳴ったような気がした年賀メールすら届かない私のスマホなのに感じたことのない息苦しい感覚胸で感じ、耳にまで届く心臓の鼓動私はゆっくりとスマホのロックを解除した相変わらずモザイクで表情がわからないアイコン堅苦しくない気さくな文章まだ会ったこともないのに私は止められない笑顔をマスクで隠し夕陽が沈む街に背を向けて街灯が導く駅の方へと駆け出した改札を抜けたと同じくらいに発車のベルが鳴り急いで電車に飛び乗る幸運にも空いていた端の席に腰を掛け握りしめていたスマホのロックを解除し荒い呼吸に気付いた私は深い一息で呼吸を整えるーー届いたばかりの、私だけへの「彼の文章」今、同じ時間に存在しているそして……彼への期待感を隣に乗せて私は、ゆっくりとホームから動き出したーーおわり「物語の続きはお問い合わせの先に……」