写メ日記
参禅記 4日目
2022年5月23日 14:37 の投稿
改めて振り返ると、この日が転換点だったように思う。
意識の拡散が収まらず心の消耗が激しい状態で一日が始まった。
このタイミングを見計らうように老師がさらに追い込んでくる。
朝の法話の後、初めて作務を命じられる。
食堂に通じる廊下の掃除を指示された。
「用心深く、ゆっくりと、ただ掃除しなさい。」
掃除の途中で老師が質問してきた。
「今何をしている。」
「額縁を拭いています。」
突然ピシャリと頬をひっぱたかれる。
頬に平手打ちされたのは人生で初めての経験だった。
老師の行為が意図的なものであることはすぐにわかった。
無駄のない慣れた動作で、綺麗な音までした。
「していることそのものになり切れていない証拠だ。頭で考えてばかりで、自分自身を放ち忘れる一点がまだはっきりしていないな。
今、何をしている。」
私はさっと掃除に戻る。
「それで良い。ただ一心にやるだけですよ。体はその場に任せて淡々と流れていればいい。掃除が終わったら禅堂に向かいなさい。」
その夜、入浴を認められた。
4日ぶりに体を洗うことができる。
風呂は壁の外側から薪を焼きながら沸かす原始的なつくりだった。
老師自ら火に薪を入れてお湯を沸かしてくれる。
「お前のために熱めに焚いたよ。これも修行の
ひとつだと思って一心不乱に入浴しなさい。」
確かにめちゃくちゃ熱かった。
熱さを堪えて全身を湯に浸ける。
「熱いだろ。ちゃんと肩まで浸かるんだよ。」
壁の外から老師の笑い声が聞こえる。
私はお湯に浸かりながら泣く。
突然涙が溢れて止まらなくなった。
老師にバレないよう声を殺しながら泣いた。
心も体も熱いお湯に溶け出していくように感じられた。